田染幸雄の世界 自然との語らい

 
05
 
 草刈り も、埼玉に疎開していた小学校1年生の時の思い出です。


草刈り

勉強が終わり帰りのご挨拶の時、先生がおっしゃいました。
〈 草を刈って、あした持ってきてください 〉

みんなが〈 はーい 〉ってお返事したので
なっちゃんもつられて返事はしたけれど
ほんとうは、何のことだかわかりませんでした。

帰り道〈 おじいちゃんに頼むからいい 〉
〈 お父さんに頼むからいい 〉ってみんなが話していたので
おじいちゃんもお父さんもいないなっちゃんには
関係ないって思ってしまって・・だから
家に着くころには、
草刈りのことはもう、すっかり忘れてしまっていました。

でも次の日、びっくりしてしまいました。
なぜって、大きな大きな草の束を
よっこらしょっ、よっこらしょって背負ってくる子がいたり 
学校の近くまでお家の人が運んでくる子までいました。

先生が〈 裏庭まで運んでください 〉っておっしゃったので
みんなといっしょに行ってみると
そこに、大きな草の山ができていたので
〈 びっくりした、びっくりした !〉って、みんなで大笑い。

〈 この草はね、きっと馬が食べるんだよ 〉ってだれかが言って
〈 この学校には馬がいたんだ ! 前に見たことがあるよ ! 〉
という子までいたので、みんなで探したけれど
からっぽの馬小屋があっただけでした。

がっかりして教室にもどると先生が
〈 みなさん、今日はありがとう。
でも、持ってこなかった人は
このままお家に帰って、草刈りをして
今日じゅうに学校に持ってきてください 〉っておっしゃいました。

川辺にも、道端にも
どこにでも草はいっぱい生えていて
だからなっちゃんだって、草つみぐらいはしたことはあるけれど
草刈りっていうのは、また別のものみたい。

家に帰ったなっちゃんは
もうどうしてよいのかわからなくなってしまって
学校に戻るのもやめてしまいました。

つぎの日、二人の子が草を持ってきていて・・
先生はなにもおっしゃらなかったけれど
それがまた気になって気になって、学校の帰り道
〈 草持って来るほうがいいのかなって思うんだけど・・ 〉
そしたら友達が
〈 いっしょに草取りにいってあげるね ! 〉
〈 草のある場所知ってるよ ! 〉
〈 後でみんなでむかえに行くからね 〉って言ってくれて
〈 ああ、よかった ! 〉

家には、いつもお母さんたちが畑で使っているくわ〔鍬〕だの
かま〔鎌〕だのすき〔鋤〕があるってことも
そのしまい場所もよく知っていたので
友だちが迎えに来るとすぐ
〈 草刈りに行ってくるからね 〉と声だけかけて
鎌を持って家をとび出しました。

いつものように小川をわたって竹やぶをぬけて・・
でも、みんなが持って来たような
丈の長い草が生えているような所には、行きつけませんでした。

そしていつの間にか、よその家の
うす暗い裏庭のような所に入り込んでしまっていました。
めずらしい草が生えていたり、小さな花も咲いていて・・
それに、いろんな虫もいてとっても楽しい場所でした。
ミミズをつかまえて、手のひらに乗せてみたり・・
それぞれが好きなことをして遊んでいました。

そしたらひとりの子が
〈 これ何だろう・・〉ってびっくりしたような声をあげて
小さな茶色っぽいビンを振りながら、なっちゃんたちを呼びました。

〈 ほら何か入っているみたい・・ねっ ! 〉
〈 ほんとだ、ほんとだ・・〉
〈 何が入っているんだろう・・〉

ビンのふたを開けようと
みんなでじゅんぐりに試してはみたものの
ふたはぎゅっとしまっていて、かたくてかたくて・・

もうだめ! ってあきらめかけたとき、なっちゃんはふいに
鎌を持っていることに気がつきました。

鎌の刃をビンのふたのところにあてがって
ぐうっと押してみました。
でもだめ !
もう一度もっと力をいれて押してみたら・・
鎌がつるっとすべって
なっちゃんの手にガツンとあたってしまいました !
〈 どうしよう !〉

びっくりして、ビンと鎌をほっぽり出すなり
右手で左手をおおいかくしてしまいました。
〈 ああ、どうしよう! 〉
なんだか大変な事が起こってしまったみたい。

まわり中が急に、しいんとしてしまって・・
みんなもだまってなっちゃんを見つめています。
見ると指の間から血が・・
なっちゃんはだまって立ち上がると歩き出していました。
みんなもだまって後についてきます。
なっちゃんの鎌を持っている子もいます。

家の井戸端で
〈 水を出してちょうだい 〉って友だちにお願いして
右手で左手の甲をかくしたまま、そうっと水の下に手をやると
〈 おお、しみる ! 〉
でも、水の下でそうっと手をなでているうちに
傷口も、血も、み~んなみんな
消えてなくなってしまえばいいのに、って思っていました。

そのときひとりの子が
〈 ほら、血止め草だよ ! 〉といって
小さな緑色の葉がいっぱいついた草を持ってきてくれました。

記憶はここで途切れてしまっていますが
ただ傷跡は、今でも左手の甲に薄っすらと残っています。


考えようによっては
そのビンの中身が、何か危険なものだったら
怪我をしたおかげで事なきを得たのかもしれません。
また、みんな水に流してしまいたいと傷口を洗った事で
ばい菌も汚れも落ち、結果的にはよかったのかもしれません。







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